ワン・ビン『三姉妹 ~雲南の子』

三姉妹 ~雲南の子 [DVD]

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ワン・ビンという人は、辺見庸みたいな立ち位置の存在なのではないかと考えてしまった。

『無言歌』について以前に書いたことがあるのだけれど、その後山根貞男『日本映画時評集成 2000-2010』を読んでいてワン・ビンドキュメンタリー映画の撮り手であることを知った。つまり日本のシネフィルの間では以前から知られていたというわけだ。改めて不勉強を恥じた次第である。

それで『無言歌』がそれなりに面白かったので、『三姉妹』にも手を伸ばしたのだけれど結果から言えば微妙な出来栄えだった。つまらない、と言えば確かにつまらない。だが、愚作と斬って捨てることも出来ない、なかなか難しい作品だと思われたのである。それについて語っていこうと思う。

『三姉妹』は雲南省の高山地帯で暮らす人々の姿、特にとある家族の「三姉妹」の姿を記録したドキュメンタリーである。『無言歌』がそうであったようにこの映画も――恐らくはワン・ビン自身がカメラを回して撮ったと思われる――人々に寄り添うような映像が印象的だ。

貧しい農村地帯の話なので、グローバル経済が発展している中国の姿を期待して観ると肩透かしを食らうだろう。中国でさえ田舎の村では電気が届くか届かないかで苦労しているのだ、とこの映画は語っている。物資を運搬するのに馬やロバを使う。いや、最後にスマホも登場するのだが、さほど強調されない。

三姉妹を描いた映画は、彼/彼女たちの人間関係と三人が触れる世界のセンス・オブ・ワンダーを描く。だが、それは例えばビクトル・エリセミツバチのささやき』やトラン・アン・ユン『青いパパイヤの香り』のようなお伽噺めいたものではない。もっと生々しくリアルだ。

だから、悪く言えばこの映画にはこちらの「俗情」を満たしてくれるようなものは描かれていない。ひたすら農村の地味な風景を描くことに終始しており、それは分かったけれどそれだけで150分を超える尺を描くのは流石に辛いだろう。私自身何度も睡魔に襲われることになった。

そんな中、印象に残ったのは食べ物を扱う場面である。麺類、豚肉(?)、その他諸々。それらの料理が美味そうに見えるのだ。このあたりの料理/食に関するエロスに私は辺見庸の『もの食う人びと』のことを思い出してしまった。それが冒頭に繋がるわけである。

つまり、ワン・ビン辺見庸にも似た想像力/資質を持つジャーナリストなのではないか。そう考えれば『無言歌』も食べ物が絡む場面が妙にリアリティがあったことを思い出される。ネズミを苦労して捕まえて食べようとする場面など……そのあたり、見事に料理を描いていたと思ったのだ。

そんなところだろうか。これ以上語れるほどのものを私は見い出せなかった。ワン・ビンの映画のみならず他の中国映画を観て、もっと映画の勉強を積んでから彼の世界にリヴェンジしたいという気持ちは残った。あるいはスクリーンで観ていたらまた違った感想が出て来たのかな、とも思う。

つまらない映画ではあるが、ワン・ビンが三流とかそんなことを言いたいわけではない。彼の映画が優れたものであることはなんとか理解出来た。だからあとは彼の映画的成長と、こちらの観衆としての成長が噛み合うことを祈りたいと思うのだ。そう思い、アジア関連の映画をチェックしているところだ。

ワン・ビンのドキュメンタリー作家としての達成を私は知らないので、いずれ彼の作品が映画館で観られることがあるとするなら、その時に観てまた考え直すことにしたい。ともあれ、観終えてぐったり疲れてしまった。だが、無駄な時間を費やしたとは思わない。

そうだ、大事なことを書くのを忘れていた。この映画はワン・ビンが自らマイケル・ムーアばりにカメラを回すのだが、ワン・ビンは自分が現場に居ることを隠さない。だからバスの中で撮影する際に「カメラマンの方は?」と運転手から訊かれることになる。これがワン・ビンのことを指すことは言うまでもない。

逆に考えれば、自分がそこに居ることを消して事件を全てクリーンにかつ客観的に、正確に情報として与えられるのが優れたジャーナリストという見方が一方にある。私はこれはこれで正しい意見だと思う。だけど、ワン・ビンのような存在もまた重要なのではないか。

つまり、自分がそこに居て現場を撹乱してしまっていることを隠さない存在。自分が状況をぶち壊していることを――カメラを回す人を一般の人間は異物として捉えるだろう、常識的に――隠さない存在。ワン・ビンはそうありたいのではないか、と思われたのだ。空気を読まない姿勢、と言えば伝わるか。

とまあ、腐したようななんだか良く分からない文章になってしまった。申し訳ない。『三姉妹』を観て、改めて自分の映画的無知を恥じたところである。だから、リヴェンジを図りたいと思っている。まずはどんな中華映画を観てみるべきだろうか? チャン・イーモウあたり?