ヘンリー=アレックス・ルビン『ディス/コネクト』

ディス/コネクト [DVD]

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凡庸な話になってしまうのだけれど、例えば TwitterFacebook や LINE といったメディアを介して人と接していると、多くの人々と繋がっているから満たされているはずなのに心が疲れてしまったり、もしくは逆説的に孤独感を味わってしまったりすることがある。それは自分の投稿に「いいね!」がもらえないとか既読スルーされたりとか、もしくはブロックされたりとかいうような事柄となって現れる。いずれも些細なことだ。だけれども、私はこういう事柄を巧くやり過ごすことが出来ずにストレスを感じてしまう。これはもう病気なのだろう。

ディス/コネクト』では三つの物語が語られる。ひとつ目は、孤独な青年に宛ててガールフレンドに成りすましてメッセージを送るふたりの青年たちの話。ふたつ目は独身のとある女性のジャーナリストが違法なチャットを行う青年をリアルで取材しようと試みる話。三つ目はカードの請求額が嵩んでしまいハックされていることに気づく夫婦が犯人を突き止めようとする話だ。この三つが、絡まるような絡まらないような微妙な関係(=「コネクト」)を保ちながら進行し、そして悲劇に至る群像劇だ。

さて、三つの事柄を説明した。成りすまし、取材、そしてハックする相手を突き止める行為。どれも最初は他愛のない事柄として描かれる。そこに悪意はない。いや、少しはあるのかもしれないが、それが取り返しのつかない悲劇を呼び寄せるとは彼らは考えない。事態はストーリーが進行するにつれて少しずつエスカレートして行き、やがて爆発する。それは例えば青年の自殺未遂と意識不明状態となって現れ、あるいは FBI のような組織が乗り出し関係性が破滅する事態として到来する。

このあたりのエスカレーションが見事だな、と思いながら私はこの映画を観た。事態の暴走は、例えば悪戯する青年たちやジャーナリスト、もしくは夫婦にも予測がつかない。そして、それは彼らにも彼らなりの理由があって行われたことであることがハッキリする。またしても凡庸な言い回しになるが、「人間を描いている」と言えば良いだろうか。ヒューマン・タッチ……乏しい映画的知識から私が連想したのは、例えばポール・ハギス『クラッシュ』のような作品だった。

つまり、「理不尽な出来事」ではないのである。彼らには彼らの事情があり、動機がある。そして彼らは事態の進展に伴い、彼ら自身が自分たちが如何に相手を理解していなかったか(=「ディスコネクト」)を知るだろう。例えば自分の子どもが悪戯に立ち会っていたことを知る父親はもちろん激怒するが、ネタを割るようなことを書けば彼は自分の息子に対して如何に冷たく接していたかを思い知る。

同じようなことは他にも言える。自殺未遂を行った青年に対して自分が決して良き父親ではなかったことを悟る男、親密な会話が少なかったことを知る夫婦……彼らは事件/悲劇を通して「ディスコネクト」から逸脱し「コネクト」しようと考えるのだ。その意味では「ディス/コネクト」という邦題は巧いと思われる。誤解や無知から来る相手の虚偽の姿を暴き、真の相手と向き合おうとするのだ。

悪く言えば、そのあたりの計算高さが鼻につく映画であるとも思う。ハートに訴え掛けて来るところがないというか、色気が今ひとつ足りないというか……良い脚本を模範的に映画に仕立て上げたという感じで、突出した作家性/個性が見当たらない。クールな質感を伴い、アイドル/カリスマ的な俳優の佇まいに頼らず演技派の俳優陣で引っ張って行く手腕はなかなかと思われたのだが、それだけでは弱いとも思う。このあたりは好みの問題になって来るのだろう。

とは言え、観終えたあと私の中でインターネットに対する恐怖を感じたのもまた確かである。なるほど題材としては在り来たりな悪戯や詐欺であり、そこに目新しさはない。だが、それらを(ややディテールが弱い感はないでもないが)説得力のある展開で引っ張って行ったスタッフの努力は評価されるべきだと思う。デーハーさがないと判断されたからなのか、この映画はスクリーンで公開されなかったという。残念な話だ。社会派の映画として示唆に富んだものであると思う。

この映画は基本的に悲しい映画だが、最後の最後で希望を垣間見せてくれる。ネタを割るようなことは慎みたいが、登場人物は改心し現実を受け留めるからだ。カタルシスはない。爽快なハッピーエンドではないが、しかし温かい希望は見せてくれる。このエンディングの手堅さにもまた、私は唸らされた。この監督や脚本家の名は不勉強にして知らなかったのだが、作家主義のスタッフとしてチェックしておく必要があるようだ。

とはいえ、この映画を観たあとでも私は結局 SNSソーシャルメディアから手を引かないだろうし、オンライン決済も利用するのだろう。そして堂々と個人情報を(まさに、この駄文を記しているように)明かし、他人からブロックされたりして「ディスコネクト」の苦味を味わう。そう考えるとこの映画、なかなか食えない逸品だと思われる。